「ワームムーン」の満月が、欠けてゆく

春を象徴する、

「ワームムーン」の

満月が、欠けてゆく。

 

卓袱の闇の中で、

「放つ光」は、

この世のものとは、

思えないほどの、美しさである。

 

「もう、無理かも知れない」と、

心が疲れ果てた時、

見上げた、

「満月の力強さ」に、

生き返る時がある。

 

昨日、

尊敬するドクターと、

何年振りかの、再会、

人間味あふれる「赤ひげ先生」は、

お歳を召されたが、

「放つ力強さ」は、健在である。

 

何十年の、関わりの中で、

数え切れないほど、

病に倒れた人達を、

「先生の元」に、送り込んできた。

 

私は、幸か不幸か、

先生に、お世話にならずに、

やって来れた「健康体」に、

おかげ様の、感謝である。

 

「私が死ぬまで、ずーっと生きてて!」

冗談みたいな、本気の想いを、

投げかけると、

「アホかいな、死んどるわ!」

と、一笑される。

 

いつのまにか、お互いに、

「歳を言えない」ほどの、

歳を重ねて、

時代を、超えてきた事を、

会話の中で、実感している。

 

人生の中で、

出会いたかった、

「唯一無二の、医師」である。

 

「誰も知らない私」を、見抜いて、

最後には、

「頑張れよ」と、

優しい言葉が、返ってくる。

 

帰り際、

「しっかり、食べてるか!」の、

声かけに、

「先生こそ!」と、憎まれ口を、

言いながら、

 

心の中で、

流れる涙が止まらない、

春が来る前に、

「聴診器」を、外され、

「白衣」を、脱がれる先生とは、

もはや、

「再会」する事は、ないのである。