死を教わる時

「こんなにしんどいのに、まだ死ねんのか!」
真っ赤に充血した潤んだ瞳で、夜叉のように、怒っている!
10年ほど前から、肺気腫を患い、徐々に進行して、今では酸素を持ち歩くほどの持病となった。
家系は、九州の大名の末裔で、蘭学の発祥の地もあり、医者家系である。
若い頃から、病気一つせず、スポーツマンであった。
そんな人たちが老いて、病に倒れ障害者となったり、自分の名前すら忘れて行く認知症になる。
現在80歳。
日本の高度成長期の中で、会社のため、国のために馬車馬のように働き、また、家族のために家を建て、子供達を大学まで行かすために、
走り抜いた男達である。
今、問題になっているセクハラ、パワハラどころか、拷問に近い地獄のような社会の中で、生き抜いてきたのである。
だから、身体も強いが、メンタルは叩いても壊れない。
そんな男の妻達も、新地に銀座に繰り出し、朝まで帰らない夫を待ち続けたのである。
勇気を持って、問いただせば、
「浮気と違う!浮体や!」と意味不明な言葉で
吹き飛ばす。
今の、ヤングママには決して通用はしないけれど、貴方のお父さんは、頑張っていたのです。
家の中に居場所もなく、痛みと苦しみで、
「殺してくれ!」と、心の中で、叫んでいるかもしれません。
そんな時は、優しい目で、できるだけ静かに
見守ってあげてほしい。
それが、人間としての義務だと思う。