「祈る」だけでは、助からない現実

「かつて、経験したことの無い台風」

と、メディアが、報道し続けている。

 

経験がないので、

想像はできないし、

「自分の命は、自分で」

と、言われても、

 

頑丈な家でもなく、

足が不自由で、避難場所には行けず、

老婆が一人、

「祈るしかない」

 

危機意識を持ち、

危険を避けて、70数年、

終戦直後の、ギリギリ高齢者。

 

瞬き、一瞬で、

自由なる国に、変容し、

急速なスピードで、

アメリカンナイズされた環境の中を、

生きてきた、

「恵まれた高齢者」で、ある。

 

悲惨な戦争を経験し、

焼け野原の荒野から、立ち上がり、

死に物狂いで、

日本を、経済大国にのし上げた、

先人達とは、ちと違う。

 

強い親達に、守られ、

物心ついた頃には、

「豊かな、日本」に、なっていた。

 

一番の、

「平和ボケ」と「甘ちゃん」は、

私達の年代で、あったかも知れない。

 

なんとかなるさ、

ケセラセラ」で、きた人間が、

かつて、経験をしなかった、

「未曾有の時代」の中で、

「命の危機」を回避する術がない。

 

若者達の様に、

瞬時な見極めもなく、

走り抜く事も、出来ず、

「祈る」だけでは、助からない現実を、

今、深く、経験しているのである。

 

 

 

新しい世紀の境界線に、立って

いつのまに、夏が過ぎ、

いつのまに、梅雨が終わったか、

定かでは無い。

 

あの日以来、

未だ、

命を失う感染症は、収まらず、

戦争の悲劇の出口は、見えてこない。

 

いつ、誰が、

計画したのか、

 

未曾有のウイルスが、

世界を震撼させ、

ヒタヒタと忍び寄った、戦車が、

21世紀の空を、炎で染めた。

 

時代を彩った、著名人達が、

打ち合わせた様に、

この世から、姿を消して行く。

 

新しい、

世紀の境界線に立って、

人間は、目を覆う惨劇に、

座屈して行く、経済のピラミッドに、

驚愕している。

 

吹き出した、

悪意、虚偽、不正、が、

猛威を振るう、

台風の渦の中で、舞っている。

 

間引かれて行く、命、

廃墟と化す、大地、

止まらない、経済の悪化、

異常事態の中で、

人間の本質が、試されて行く。

 

悪意から、

同じ分量の、善意が生まれ、

失った命の、悲しみから、

大切なものを、守るための、

決意と勇気が、生まれる。

 

地球に起こる、

全ての出来事が、

相対であるならば、

深い苦しみと、同じだけの喜びがある。

 

人間の心の何処かに、

冷静で、

静かなる場所がある。

そこからしか、生み出せない、

不屈の精神が、目覚め始めている。

 

 

 

 

 

 

 

 

名残惜しげな「有明月」

朝、

晴れわたる空を、

見上げれば、

名残惜しげな「有明月」が見える。

 

姿を、消し遅れた月が、

我が事の様に、思えて、

ささくれ立つ心が、

何だか、ホッコリとする。

 

仕事で使っていた、

大きなホワイトボードが、

部屋の中で、

ボケ防止のための、

「物忘れボード」に、変わっている。

 

「忘れんとこ!」

自治会のお知らせ、

病院の診察日、

友人との、ランチ日、

果ては、

自分の携帯番号まで、記述済み。

 

終わったら、「済み」マークをつけ、

いらなくなったら、破棄して、

今のところ、

スムーズに、活用はできているが、

 

怖いのは、

書いた事を、忘れ、

大切な書類を、貼ったことまで、

忘れてしまう事である。

 

あの人が、あの人でなくなり、

タイルが剥がれて行く様に、

人格が、壊れていく。

 

若い頃、

向き合った高齢者も、また、

自分である事を、認識している。

 

孤立せず、人と交わり、

「笑ったり、怒ったり、泣いたり」

も、良し、

多少、身体が、不自由になっても、

最低限の「生活リハビリ」

も、良し。

 

当たり前のことが、

当たり前に、出来なくなる現実が、

悲しくもあり、切なくもある。

 

私は、誰?

此処は、何処?

そして、今何時?

忘却の螺旋の中で、

ゆっくりと、迷走して行く。

 

しかし、不思議な事に、

「大丈夫?」と、

触れてくれる、

小さな手や、暖かな温もりは、

決して、忘れないのである。

 

「大好きだった」

ワンちゃんや、ネコちゃんの、

可愛い姿は、

決して、忘れないのである。

 

 

 

 

「教育」と言う名の本

闇の中を、

少年は、走っていた。

 

地図のない、

行く先の無い道を、

死んでもいいから、

走り続けている。

 

何から、

逃げているのか、分からないまま、

先ずは、家族から、

意地悪な、友達から、

支配する先生から、

そして、虚偽だらけの社会から。

 

逃げなければ、

命がなくなる恐怖から、

大通りを、走り抜き、

路地裏を、曲がりくねり、

水平線が、見える、青い海へと、

 

辿り着いた先は、

都会の橋の下でもなく、

得体の知れない巣窟でもなく、

ポツンと、灯りのついた、

ちいさな小屋。

 

部屋の中には、

数えきれないほどの、

「教育」と言う名の本が、

溢れるほどに、並んでいる。

 

棚から、

一冊の本を手に取り、

少年は、

静かに、ページを開いた。

 

そこから、

人間が教えてこなかった、

「真実」が、見えてくる。

 

「ふざけた秋」に、抗うように

炎熱の、

街路の影を、

探しながら、歩いている。

 

「ふざけた秋」に、

抗うように、

あえて、日傘もささずに、

生暖かな風に、髪を靡かせて。

 

時間は継続され、

継続は変化すると、

信じて来た通りに、

暗黒の世界から、

少しずつ、人間は離脱して行く。

 

良き事も、悪しき事も、

地球が人間を、変えるのではなく、

人間が、地球を変えて行く。

 

喪失感で、

疲弊した人達の声が、聴こえる。

微弱なこの手で、

触ることさえできないけれど、

 

この日常も、

あの非日常も、

老いた身体で、実感して、

今もなお、経験として、積み上げて行く。

 

知り得た、

リアルな体験が、

数年後、数十年後に、

子供達の、魂の中で、

活かせる時が、気づける時が、

必ず、来ることを知っている。

 

野卑な人の指図の下で、

戦争が起こり、

動乱が、繰り返されても、

何処かに、

純粋で、真っ直ぐな信条が、

平和を獲得する。

 

移りゆく、

日本の四季が、

予定通りに、思惑通りに、

来なくても、

まだ、地球の上に、乗っかって、

生きてる感謝を、実感している。

 

 

「幸せの音」が、聴きたい

猛威を振るう、

石垣島に住む、妹と、連絡が取れず、

眠れない日が続いている。

 

自然に憧れ、

生まれた都会を離れて、

40年が、経った。

 

いつのまにか、

すっかり、姿も、言葉も、

沖縄の人になっている。

 

「私だけが幸せで、ごめんね」

と、妹は、いつも言う、

見知らぬ土地で、

「幸せ」と言えるまでに、

どれ程の、苦しみと、悲しみが、

あったか、知っている。

 

都会であろうと、

地方であろうと、

その場所で「生きぬく」には、

それなりの、壮絶な人生がある。

 

どこまでも、続く、

透明な、美しい海に囲まれ、

輝ける太陽が沈めば、

満天の空に、月や星が、

絵画のように、映し出される石垣島

 

「もう、二度と戻るまい」

と、心に誓って、

この月を、この星を、

「お姉さんも見てるだろう」

と、心を馳せて来たと言う。

 

今では、便利になって、

石垣島までは、

飛行機で「ひとっ飛び」

 

お互いに、

訳あって、事情もあって、

一生懸命、生きてる間に、

いつのまにか、、

歳を重ねた姉妹になった。

 

「宅急便でーす」

夏が近づくと、

毎年、送られてくる、

ピカピカの、トロピカルフルーツ、

 

宝物が、

いっぱいある、石垣島に、

都会から、送れるものに、

思案する。

 

お金も食べるだけあればいい、

洋服も、暑さが凌げればいい、

家も、眠れる場所があればいい、

 

早朝の、畑の中で、

鳥の声を聴きながら、小休止、

地球の大地から、

吹く風の中に、

「幸せの音」が、聴こえてくる。

 

いつの日か、二人で並んで、

「幸せの音」を、

一度は聞いてみたいと、願っている。

 

 

 

 

母から、手渡されたマニュアル本

亡き母から、手渡された、

「人生のマニュアル本」

もはや、文字も霞んで、

見えにくくなってきた。

 

40歳で、

命を絶った人が、書いたもの、

どこを探しても、

倍を生きてきた私にとっての、

マニュアルは、

途中から、消えている。

 

「それだけ、生きたら、それなりに」

と、母の声が、聞こえるが、

残念ながら、

未だ、迷い道から、抜け出せないでいる。

 

探究心と、好奇心の、

強い私を、心配して、

数々の、お稽古事も、

私には、全くもって、身に付かず。

 

母を、

「悲しませたくない」

だけを、信条に、

此処までは、生きて来たけど、

 

「古すぎて、使えない」

マニュアル本と、地図を片手に、

立ち往生している。

 

「地図のない道」で、

サイコロ振って、

決めるわけにもいかず、

あちこち、動かなくなった身体で、

「どうすんの!」

と、思案に暮れてる、私がいる。

 

皮肉にも、

台風が、運んで来た、

「秋の風」の中に、

60年前の、

優しい母の姿が、見え隠れする。

 

そっと、渡された、

困った時の、マニュアル本も、

迷った時の、地図も、

 

今は、私が、新しいものに、

書き換えて、

心の中の本棚に、置かれている。