大先生から若先生に

朝、

「コン、コン」

と、小さな咳払いから、始まった。

「ちょっと、やばいかな」

と、思った時から、急降下で悪化した。

 

春と秋の季節の変わり目、

6月と9月は、私の鬼門月である。

元々、気管支周辺が弱いので、

これらの月は、医者通い。

 

若い頃から、

一家がお世話になっていたお医者様が、

二代目に、いつのまにか、代替わり。

 

大先生の時は、

「旦那は元気?」から始まる診察。

「先生こそ、お元気?」

「あきまへんわ!歳ですわ!」

そんな会話の中で、

気がつけば診察は終わり、

「大丈夫や、心配いらん!薬出しとくわ」

 

行く前は重い足取りも、

帰りは、もう病気は治った様に、

元気になる。

不思議なもので、

昔から、カルテなど見なくても、

私の隅々まで、ご存知である。

 

「先生!死ぬまで、私を看取ってね」

と言うと、

「アホな事、言わんといて」

と、言ってた先生は、もういない。

 

新しい、若先生は、

パソコン見ながら、

「どうしました?」

と、冷ややかに経緯を聞いて、

「血液検査しときますから、

来週来てください」

で、終わる。

 

体温測り、血圧測り、

ファイバーで撮った画像写真を見せて、

「ほら、こんなひどくなってます」

「えーっ!癌と違いますか?」

「癌ではありません」

けったいな会話である。

 

婆さんの愚痴に聞えるのか、

患者の話を聞いてない。

病名聞いても、

「言い寄らへん!」

 

受付に飾られたプロフィールには、

有名医大の名前が記載され、

立派なドクターには違いないけど、

人間的には、まだ半人前と、失礼な見解。

 

聞いたこともない様な薬が山ほど出て、

「この薬大丈夫?」と疑惑まで出る始末。

医療も化学も進歩して、

医者も、機械の扱いや、データーの数値で、

見極めれば、間違いなし。

 

「もう、ダメかも」

と、言われていた人が治る様な奇跡は、

無いのかもしれない。

 

お医者様に行って、安心はしたが、

何だか寂しい気持ちが、拭えないのは、

私だけなのかしら?

 

秋雨前線の影響で、降り出した大雨も、

少し止んで、

ひんやりとした空気に寒さを感じて、

カーディガンに手を通し、帰り道を急いだ。