60年前の漫画ブーム

親戚筋に仲良しの女の子がいた。

幼い頃、

二人は、少女漫画を描くのが好きで、

漫画交換ノートを、作っていた。

 

今から思えば、

彼女は、天才的な腕前だったと思う。

結構、枚数も溜まり、今なら、

ジブリにでも、投函していたかもしれない。

 

昔から人柄が良くて、

「怒らなあかんよ!」と言うと、

「これでも怒ってるんよ!」

と、笑って答える。

 

何しろおっちょこちょい、

人の靴、まちがって履いて帰ったり、

人の結婚式のヴァージンロード、

嬉しくて、一人で走ったり、

もはや、サザエさんの世界であった。

 

お互いに、優しかった母親が、

若くして亡くなり、

「お母さんたちは、若い時に死んでるから、

いつまでも、綺麗ね」

と、慰めあう関係であった。

 

最近のアニメブームに、

私達は、何十年前から、漫画を書いて、

動画にはならなかったけど、

「先駆者やね!」と、自画自賛

 

お互い、

人生、色々あって、

大切にしていた交換ノートは、

どこかの時代で、消えてしまった。

 

「漫画のノートなんて、持ち出せなかったわ」

と、彼女

「実家を出た途端に、私の部屋ごと、

なくなったからね」

と、私

 

唯一、

守ってくれる母を失った二人は、

それぞれの激動の人生に向かって、

生きていかねばならなくなった。

 

彼女は、独身のまま、

絵ではなく、文字を書く職業について、

いまは、小さなパソコン教室の先生。

 

私は、独居暮らしで、

絵ではなく、言葉を話す職業について、

今は、専門学校の講師。

 

「ねー、チーちゃん、もう一度、

漫画を描かへん?」

「えーっ!ムリムリ、もう描かれへんわ!」

 

「・・・」

 

と、言いながら、

二人の70歳を超えた婆さんは、

まんざらでもない沈黙が、

答えかもしれないのである。