親戚筋に仲良しの女の子がいた。
幼い頃、
二人は、少女漫画を描くのが好きで、
漫画交換ノートを、作っていた。
今から思えば、
彼女は、天才的な腕前だったと思う。
結構、枚数も溜まり、今なら、
ジブリにでも、投函していたかもしれない。
昔から人柄が良くて、
「怒らなあかんよ!」と言うと、
「これでも怒ってるんよ!」
と、笑って答える。
何しろおっちょこちょい、
人の靴、まちがって履いて帰ったり、
人の結婚式のヴァージンロード、
嬉しくて、一人で走ったり、
もはや、サザエさんの世界であった。
お互いに、優しかった母親が、
若くして亡くなり、
「お母さんたちは、若い時に死んでるから、
いつまでも、綺麗ね」
と、慰めあう関係であった。
最近のアニメブームに、
私達は、何十年前から、漫画を書いて、
動画にはならなかったけど、
「先駆者やね!」と、自画自賛。
お互い、
人生、色々あって、
大切にしていた交換ノートは、
どこかの時代で、消えてしまった。
「漫画のノートなんて、持ち出せなかったわ」
と、彼女
「実家を出た途端に、私の部屋ごと、
なくなったからね」
と、私
唯一、
守ってくれる母を失った二人は、
それぞれの激動の人生に向かって、
生きていかねばならなくなった。
彼女は、独身のまま、
絵ではなく、文字を書く職業について、
いまは、小さなパソコン教室の先生。
私は、独居暮らしで、
絵ではなく、言葉を話す職業について、
今は、専門学校の講師。
「ねー、チーちゃん、もう一度、
漫画を描かへん?」
「えーっ!ムリムリ、もう描かれへんわ!」
「・・・」
と、言いながら、
二人の70歳を超えた婆さんは、
まんざらでもない沈黙が、
答えかもしれないのである。