消されたテレビ

不気味なほど、

誰からも、何処からも、

電話がかかってこない。

 

「どうしたのかな」という私も、

誰にも、何処にも、

もう、電話をかけようとはしない。

 

肉体は疲弊してはいないけれど、

心が、心だけが、深い穴に落ちていく。

 

目覚めた朝、

暑さに慣れた身体に、寒気がする。

エアコンの人工的な風は、

部屋中を凍らせる。

 

食べたい物も、美味しい物も、

並ばないテーブル。

 

大好きだった、

ノースリーブの紺色のワンピースは、

今年の夏は、置いたまま。

 

部屋中探しても、見つからない、

みんなの笑顔。

 

電話の向こうに、約束も、予定も、

見当たらないけれど、

泣き顔の貴方が、見える。

 

消されたテレビの代わりに、

アップルのノートパソコンから

玉置浩二が、囁く様に歌い続けている。

 

コロナ前の日々に、

もう二度と、戻りはしない。

音楽は、美しい歌声は、

私をあの日まで、元返しでゆく。

大好きな曲が、心を浄化してゆく。

 

何も出来なくなっても、

祈る事だけは、

誰にも残されている。