「一過性全健忘」で、失った時間

嫌な人、

嫌な出来事、

「忘れたら、楽になる」とは、

言い難い病気がある。

 

歳を取ると、

「物忘れ」

「記憶障害」

認知症の症状の一つである。

 

「階段」を、

ゆっくりと降りてゆく様に、

症状が進むので、

本人も、周りも過酷な状況ではない。

 

「一過性全健忘」を、

友人が、発症した。

かつて、

忘れ物さえ、一度もなく、

質問には、

完璧に対応する人であった。

 

空から、何かが、

「ストン」と、落ちるが如く、

脳から、全てが、消えてしまう。

 

突然、

「今は、何日、何曜日?」

「何をするのか、何を言うのか?」

「頭がおかしい!」を、

繰り返す。

 

職業柄、

慣れてはいるが、

さっきまで、楽しく会話していた、

友人が変容すると、動揺する。

 

「血圧測ろうか?」

興奮するので、高めではあるが、

さほどではない。

手足は動き、身体的異常がなく、

脳梗塞や、脳出血ではなさそうだが、

 

「悲痛な」状況に、

見ている方が、

血の気が引いて、

口の中から、水分が、消えてゆく。

 

脳から、思考が消えて、

「真っ白になる」と言う、

経験はあるが、

なったものでしか、分からない、

「恐怖と不安」

 

一部の隙間もなく、

「並べられた記憶」が、

誤作動によって、崩壊してゆく。

 

「完璧にシステム化」されている、

脳の存在は、

「無意識」の中で、培われているが、

「意識」を持っても、微動だにしない。

 

肉体の端々まで、

脳の指示命令で、司られ、

空間に、寄り添う様に、

人間の姿がある。

 

主訴を失くして、

「何をすれば良いのか?」が、

浮かび上がってこない、

現実の波動の中で、

自分すらも、見失う。

 

「おかしい」自分と、

向き合う恐怖体験、

「一過性全健忘」は、

原因もわからなければ、

確固たる治療もない。

 

「たった一つの救い」は、

一度、罹ると、

二度と、発症しないときいているが、

数十分、数時間、数日、

「異次元」を、彷徨うのは、

ゴメンである。

 

だから、

「大丈夫よ」と、

無責任な慰めはやめて、

すぐさま、

病院へ運び、化学的な検査で、

病気ではないことの、証明をする。

 

友人が、

「一過性全健忘」で、失った

「空白の時間」は、

私の脳裏の中に、

忘れずに、大切に、しまっている。