「母が消えた」
この家から、
二十歳を過ぎたら、出て行こうと、
子供達は、思っていた。
母を亡くした当時は、
父は、40代であった。
仕事の鬼と化した男性にとっては、
我が子(女、男、女、女)を、
育てる術も、気持ちも皆無であった。
母が、死んで一年も立たないうちに、
「新しいお母さん」ではなく、
「新しい父の嫁」が来た。
どさくさ紛れの中で、
見知らぬ人が、家族となった。
消毒液の匂いを放ち、
白衣を着た、その人は、
「私は、貴女方のお母さんには、
なれないので、悪しからず」
と、毅然と言われた。
一瞬、驚きはしたが、
何故か、
「爽やかな風」が、私の耳元を掠めたのを、
覚えている。
「この人となら、やっていける」
かもしれない。
腹に一物もった、
「表向きだけ」の、仲良し家族の姿、
「口先だけ」の、親子関係、
本当の親子であっても、
間違えば、恩讐となる。
「家の守り神の様な」母とは違い、
「医師」という資格を持ち、
人の命を、救う使命、
精神も、社会的にも、
「完全自立」の女性であった、
私は、ギリギリ中学生、
間違っても、
「お母ちゃん!」とは言えないが、
実母の「金魚のフン」とまで、
言われていた、幼かった妹の、
心は計り知れず。
「言葉を失ない、心を閉ざした」、
姉妹達は、
誰にも助けられず、
一人で生きて来たおかげで、
どれほどの悲しみと苦しみを
乗り越えたかを知っている。
其々が、
居場所を創り、
他者のために生き、
命の時間を、大切にして、
「終着駅」で、出会える事を、
願っている。
そして、
「山ほど、話したいことがあるの!」
と、願っている。