「袖擦り合うも、他生の縁」

一度も、

「対面で挨拶」もなく、

「名前も知らない」人と、

手を振るように、なってから、

一年にもなる、

 

駅まで、

走って3分、徒歩5分、

一番の近道は、

商店街を通り抜ける、

 

ある日、

店の2階の、

「内障子のあるガラス窓」に、

いつも、人がいるのに気がついた。

 

あの有名な

「貞子さん」みたいな、

白いロン毛のおばあさんが、

一日中、

同じ場所で、目の前の道ゆく人を、

見ているのである。

 

昔から、

「気配に敏感な」私は、

通るたびに、見上げていたら、

ある日、

全開した窓で、

例のお婆さんが手を、ふっている。

 

返事をしないのも失礼で、

笑って、手を振り、答えたその日から、

私は、

その道を通るたびに、「手を振る人になった」

 

初めは、

お歳から、認知症もありそうで、

貞子さんの風貌とは大違いの、

明るい笑顔、

 

お互い黙って、

「一礼していた挨拶」も、

最近は、

大きな声が、かかる様になった。

 

少し下を向いて、歩いていると、

「頑張りやー!」と、声がかかり、

おばあさんの家の自動販売機で、

飲料水を買っていると、

「お金、いらんからねー!」と、

叫んでる。

 

どちらが、

勇気づけられているのか、

わからんわー!

閉じこもりの寂しいお婆さんに、

軽い気持ちで、手を振った日から、

約、一年、

 

雨の日も、炎天下の日も、

いつ、何時、

同じ場所で座ってる。

顔が見えなくても、「ちょっと心配」

だからと言って、

待ってくれてる様子も、「申し訳ない」

 

お互い名前も知らず、

気遣いながら、励まし合って、

おばあさん同士の友情が、

小さな、商店街で生まれた。

 

歳いった婆さんが同志が、

「袖擦り合うも、他生の縁」から、

始まった、友情、

いつの日か、

おばあさんの顔が、消えても、

私が歩く姿が、消えても、

商店街を、優しい風が吹いている。