「絵描きの端くれですが」

「絵描きの端くれですが」と、

私を描いた絵を、くれた。

 

額装もせず、

「透明のアクリル板」に、

挟んで、飾ったら、

軽いタッチの、ポスターみたい。

 

「数えきれない」ほど、

棲家を変えて、

「逃げる様」に、生きて来たけど、

この絵だけは、手放さず、

 

誰一人、

「この絵は、誰?」と、

聞かれたこともなく、

長い月日、

私の人間関係を、見て来たのである。

 

パソコンを打つテーブルは、

友人達との楽しいランチの、

場所になり、

 

あっち向いたり、こっち向いたり、

朝まで眠れる

大きなソファベットは、

友人達との、秘密の会話の、

場所になる、

 

オーガンジーの、

白いカーテンの向こう側で、

私の絵が、

聞き耳を立てて、笑っている。

 

静謐な部屋の中で、

少し、色褪せたけれど、

黒い大きな瞳は、

間違いなく若い頃の、

私である。

 

フランス人の奥様と、

三人の、優秀な青年達と、

パリ郊外の、

素敵な家で、暮らしていた人、

 

フランス人より、

フランスの事に詳しくて、

特に、行政のこと、制度のことは、

パリの国家公務員、

 

「フランスの案内人」と、呼ばれて、

行くたびに、お世話になったが、

以外に早く、

呆気なく、

病気で亡くなられた。

 

「絵描きの端くれですが」と、

言った人の、一枚の大切な絵が、

何十年経った、

今も、

私の家のリビングに、

飾られているのを、誰も知らない。