さようならも言わずに

人はあっけなく死ぬ。
一瞬で、火葬されて、姿を消す。
追いつかない悲しみが後を追うが、混乱した心が、平常心を失ってゆく。
あれほど長く苦しんだのに、いつが最後だったか定かでは無い。
さようならを伝えるタイミングを自ら外して、気づかない間に、あの人は駒を進めた。
立ちすくんだ両手に遺骨を抱いて、幕は閉じられるが、残された人の悲劇のドラマは、今から始まる。
「覚悟していました。」
「いつか、こうなることを。」
遠くにある悲しみを見つめながら、死を受け止めてはいない。
答えも出さず、解決もできてはいないのに、この世から消えた偶像に呼びかける。
亡き人との関係性においては、
「人は、いつかは死ぬもの」
と、簡単には思えない。
あの人にもう一度会うために、過去に元返して行くために、果てしない時空を超えて、たどり着いたその場所には、誰も待ってはいなかったけれど、優しい風が吹いていた。
本当のさようならをいうには、もう少し時間が必要である。