ハッピーエンドになりたい

親が甘やかしたわけでもないのに、
私は、わがままな人間になった。
父は厳しく、母は亡くなり、
途方にくれた私を育てたのは、
本棚に並んだ本である。
スマホやゲームなど、なかった時代に、
唯一の情報源は、数々の本。
母が子供達に残した大切な遺産である。
世界文学、日本文学、美術全集、百科事典、
楽しくも面白くもない本を、寂しさを紛らわすために読み続けた。
学校なんか行かなくても、これだけの本を制覇すれば、知識の宝庫である。
おかげで、私の右脳は、数々の本によって、
成長し、夢見る夢子になったのである。
新しい本を開くたびに、私はその本の主人公に
引き込まれ、歓びも、苦しみも味わった。
善人も、悪人も、私の中にいることを知ったのである。
母が書いてくれた幸せになるための地図を、どこかに置き忘れたまま、
道に迷い、傷つきながらも、本の中の主人公から励まされ、諦めることなく、人生をあゆんできた。
たいていの本のストーリーは、必ず絶望的なドラマから立ち上がりハッピーエンドが多い。
そんな結末をいつも信じていたので、
嵐の中を木の葉のように舞う羽目になっても、突き進む姿を見て、周りは心配を通り越して、
「稀有な人」扱いであった。
だから、どんなことが身に降りかかっても、
悲しみや苦しみのドアを、自ら開けて乗り越えてきた。
本の中の主人公のように、ハッピーエンドになるまでは、まだ、私のドラマは終わらない。
生きてる限りは、自分の人生は、主人公も著者も貴方であることを忘れないでほしい。