ゴンドラの唄

命短し、恋せよ乙女
赤き唇、あせぬまに
熱き血潮の、冷めぬまに、
明日の月日の、なきことを
私達の年代で、この曲を知らぬ人はいないだろうと思う。
私もまた、心が疲れた時この歌を口ずさむ。
若い頃には、唱歌のように聴いてはいたが、
歳を経て改めて聴くと、心に沁み渡る、
命短し・・・明日の月日のなきことを、
この言葉を深く考えずに、生きてきた自分を顧みれば、悔いが募るのである。
赤き唇・・・すっかり褪せてしまうまで、本当の恋など一度も経験できなかった自分が、悲しい。
美しい、恋する乙女には、程遠い人生だったような気がする。
女の一生」とは言い難い人生を送ってきたのである。
女の子供には目もくれない父と、自立を求める継母の家庭に育った私は、愛される事も抱きしめられる事も知らずに日々を過ごした。
自分の身を守る事だけに精一杯の人生の中で、
たった一人の人を愛することさえ出来ずに来た事を、魂は悔いていた。
孤独にもなれ親しみ、人との離別も厭わず、
「来るもの拒まず、去る者追わず」
と、言い放って来た乾いた心が愛おしく、切ないのである。
たった数行のこの歌詞に、私が憧れ続けて来た想いがある。
私と同じ思いで、何も言わず、ただ粛々と頑張り続けている人を見ると、
「もう、いいよ。それ以上、頑張らなくてもいい。一休みしょうよ」
と、声を掛けてしまう私がいる。
貴方の事を思ってくれる人は、必ずいる事を知らせてあげたい。