春の兆し

カーテンの隙間から、輝く光の朝日が射し込んでいる。
思いっきり、カーテンを開くと、春色の光景が目に入る。
いつもなら、重く、気だるい身体も、軽く爽快である。
今日もまた、地球が無事に回っていることに感謝である。
冷蔵庫に残っていた小さなじゃがいも2個。
ポテトサラダを作り、ビゴのパンをこんがり焼いてジャムバター、そして、ロイヤルブレンドコーヒーを立てて頂く朝食は、格別美味しい。
テレビが、内田裕也さんの死去を報じている。
長い別居結婚でありながら、夫婦の形を押し通した強い意思の樹木希林さんを亡くされたのはついこの間である。
最期まで、二人揃って天国に召された事は、ご夫婦にとっては抗えない事実である。
他者から見れば、
「死んで一緒になったから、よかったやん!」
と言う人も居るだろうが、数奇な運命の中で、
言うに言われぬ、見せる事のない本音があるだろうと感じる。
掛け違えたボタンをそのままにして、ぎこちなさの中で消化されて行った長い時間。
思いとは裏腹な道を選ぶしかなかったけれど、
そうするしか生きれなかった二人の人生。
同じ別居結婚を長く経験した私も、一度決めた列車は止めようがなく、乗り換えることもできずに夫が先立ったのである。
まともな結婚生活ではなかったけれど、二人の出会いは、無限の地球の螺旋の中で起こった真実である。
善悪では判断できないほどの、二人の軌跡は、
誰にもわからない。
仲良く添い遂げた夫婦も、いびつな形の夫婦にも、どちらも同じだけの悲しみと喜びを与えられているのだと思う。
来世、何処かで出会っても、知らん顔で通り過ぎようとは思っている。
人を幸せにするために生まれてくるのが、本当だとしたら、私の今生は失敗に終わったかも。
間も無く訪れる春が、生きていることの喜びを届けてくれる。
そんな兆しの朝である。