息子の命の身代わりに

当時、

阪神大震災で、

飼い主を亡くした犬が、

保健所に、集められていた。

 

お持ち帰りされなければ、

殺傷の運命、

その中から、真っ白の可愛いスピッツを、

選んで、我が家に連れて帰った。

 

あまりに痩せて、

ヨレヨレだったから、

近くの獣医さんにみてもらったら、

ありとあらゆる病気に、

感染してるから、

「間も無く、死ぬよ」と、言われた。

 

それでも、毎日、

点滴を打ちに、通ったけれど、

ある日、

お布団の中で、死んでいた。

 

その日は、

高校生の息子が、原チャで、

水を買いに行き、

軽四と衝突して、事故に遭い、

重傷を負った時間であった。

 

犬は死に、

息子は命を救われた。

その為に、

その日まで、

息子の命の、身代わりになる為に、

数週間、「うちの犬」になっていた。

 

名前すら、つけるのも忘れていた、

阪神大震災のあと、

「シロちゃん!」は、

息子の事故を知っていた様に、

必死で生きていた。

身代わりになる為にだけ、

生きていた、

 

一週間の小さな命が、愛おしく、

今も、

その事故でついた、息子の顔の傷を

見るたびに、

感謝の気持ちがわきおこるのである。