春の嵐

春の嵐など、到底来そうもない冬山の冷たさを感じながら、高速道路の流れの中に車を走らせていた。
時代を超えても変わらぬ静謐な山の風景は、揺れ動く心を整えてくれる。
少し日が落ちた頃、車窓の中にぼんやりと霞がかかった様な月が現れた。
おぼろ月夜。
低く、近く、温かな優しさに包まれて、インターを通過した。
見上げれば、いつも通りの遠くて小さな月が見える。
悲しいことや辛い事に出会いすぎて、春の嵐の様に心の中を風が吹き荒れていたのは、私だったかも知れない。
同じ悔し涙を流した人達に、間も無く春が来る事を、おぼろ月夜がそっと教えてくれた優しい夜になりました。