息子への謝罪

70年、生きてきた中で、たった一度だけ、人に手をあげた事がある。
犠牲者は幼かった我が息子である。
原因は、未だ思い出せず。
無責任な話である。
多分、叱ったのではなく、私は怒ったのかもしれない。
世の中には「殴りたい!」ほど、腹立つ人には山ほどあったのに、罪のない息子のホッペを、たった一度だけ叩いたことを、私は今も忘れない。
どうか忘れていてほしいと、小狡いことも考えたし、いっそ、息子に謝ろうかと迷ったり、
私の倍ほど大きい、寡黙な息子を見るたびに、
やっぱり、辞めとこと避けてきた。
私は、子供には決して感情的にはならないことを信条に育ててきたけれど、
「子供は、ポコポコ叩いたらいいねん」と、愛情深き母親は、堂々とのたまう。
私は、愛情には自信がなかったが、息子の資質と自らが学んでくれたおかげで、人として間違いなく、勝手に育ってくれたことに感謝である。
何十年経っても、私の手のひらに、息子の痛みが、確かに残っている。
すっかり、大人になった息子への、母親としての心残りは、これだけである。
死ぬまでに、チャンスがあれば謝りたいと願っています。